現代病とも言われるうつ病ですが、その原因は正確にはわかっていません。様々なストレスがかかった場合に、一時的に抑うつ状態になることは多くの人が経験することですが、ほとんどの場合はしばらくすると抑うつ状態を克服し平常に戻ります。しかしこのストレスが一定以上の強さや期間を超えると、自然治癒力を超えてしまい、うつ病などの症状が発症します。働く人の6割、見方によっては8割がストレスを抱えていると見られており、ストレスはもはや現代社会のいたる所ではびこっています。
ストレスの原因とは一体何なのでしょうか。仕事や学校、家庭での人間関係が上手くいかないことであったり、掲げた目標に到達できないことへの苛立ちであったり、周囲からの期待やプレッシャーであったりと様々で、また複数の要素が絡み合っていることもあり、これという原因を限定してしまうことは難しいかもしれません。しかし多くは自分と他人との関係についての心地悪さであり、周りの人のサポートや自分の心の持ちよう次第では、ある程度軽減できるものも多くあるはずです。
思えば、少しでも快適な生活を得るために仕事や勉強に精を出すはずが、社会が物質的に豊かになるにつれてストレスが増えるというのも皮肉な話です。翻って見れば、一人ひとりが他人のことを気遣う気持ちを少しずつでも持つことができれば、そして高望みをするのではなく「足るを知る」という気持ちを持つことができれば、今得ている物質的な豊かさをもっと心地よく享受できるはずです。
しかし、そうとわかっていても、その少しずづを実行することはなかなか難しいものです。ましてや自分ひとりだけが実行したところでさほどの効果はなく、大勢が実行してはじめて社会のありように反映されるというジレンマがありますから、どうしても腰が重くなります。しかし、周りが動いてからというのではなく、まず自分から進んで動く勇気を持たねばなりません。そして実際に実行してみることが大切です。
はたして、物質的豊かさと精神的豊かさの両立はできるのでしょうか。それが「心の時代」といわれる21世紀を生きる人々の課題です。
スペインでは経済に一気に大きな力を注いだためモラルが大きく低下した、という話があります。92年のバルセロナオリンピックを迎えるにあたって、スペインではバルセロナをはじめ都市部の整備を行いました。きれいな街、きれいな人を目指して、道や建物を整備し、街の人々にも公共マナーを守るようを訴えました。
それまではバルセロナの道にはたくさんのゴミや犬の糞などが捨てられていましたが、それらの行為も禁止されました。街にゴミを捨てる人はいなくなりましたが、それまでゴミの清掃を仕事にして生計を立てていた人たちはたちまち路頭に迷いました。
また五輪以前は夜の公園などで酒によって寝ている人も多く見られましたが、そういったことに対しても厳しく取り締まられるようになりました。公園で寝る人はほとんどいなくなりましたが、しかしたまに寝ている人がいると、財布などを盗まれたりするような被害が多発しました。それまではスリなど滅多にいなかったのに、スリをする人が増えてしまったのでした。
そして何より物価が高くなり、仕事や勉強に対しておおらかだった人々が、それらに追われる生活を送るようになりました。上っ面の美しさの裏に追いやられた、いくつもの汚れた部分があります。しかしよく見ればその汚れと美徳とは微妙な関係にあるということも言えます。こういったスペインのような、経済効果の獲得と引き換えに人情味を失ってしまうという形に、日本の姿もまったく当てはめることができるでしょう。
たしかに路上にゴミを捨てることはよくありませんし、夜の公園で寝ることも見苦しいことです。しかし何から何まで美しく、というのもそれはそれで難しいことで、無理に押し付けるとどこかで反動が返ってきます。もちろんあまり度を過ぎてはいけませんが、人間たまには少しくらい悪い事だってしたいし、汚いものも見たいわけです。それを100%禁止してしまうのは、実は簡単なことなのかもしれません。しかしそれは無視や無関心にもつながります。あるときは叱り、あるときは見逃し、そういった面倒を請け負うのもまた思いやりなのかもしれません。
(月報「石鎚」より)